渋沢栄一さん、その行動力や考え方、また、自分の思った方と全く逆の方に流れが行くときにそこをどう選択してどう向き合っていくかの姿勢が面白くて、関連本を多読中です。
〈伝記を読もう『渋沢栄一 近代日本の経済を築いた情熱の人』(芝田勝茂・文/あかね書房)〉
〈『渋沢栄一』の生涯・生い立ち・やり遂げたこと・いきさつを知るには〉この一冊はお薦めです。
児童書〈伝記〉は、なかなか侮れません。
文字も大きいし、よく まとめられています。
討幕を企てていたのに、意に反して一橋家・徳川慶喜に仕えることになる経緯や、その流れから、幕府から派遣され万国博覧会が行われるフランスにいくことになって、そこで旅行中の財政を任せられます。何とその間に幕府が倒され新政府が生まれます。
〈栄一の先を読む力や行動力について〉
新政府から使節団に「帰国せよ」と命令がくだりますが、幕府からの送金は期待できない中、帰国する旅費をどう遣り繰りしたかが詳しく書かれていて、面白いです。栄一は、フランス国債や、鉄道会社の株を買っていて、それを売って帰国費用に充てました。
〈しっかりと「論語」の教えも盛り込まれている〉
また、『これを知るを知るとなし、知らざるを知らずとなす。これ知れるなり』、『誠は天の道、誠の者は人の道』など「論語」の教えも盛り込まれています。
〈幕末から世界大戦までの栄一の生涯とその時代背景も盛り込まれている〉
帰国後は、「駿河で慶喜様のそばに住み、農業でもして生きていこう」と思っていたのに新政府の大蔵省で仕事をする流れになる経緯も分かりやすい。結局、お金や利益を生み出すことをしなければという栄一と、その話を聞かず予算の要求だけを突きつけてくる大久保利通たちとの関係。そこから、大蔵省を辞めて、民間の産業を起こすしかないと「お金儲けはいやしい」とされている風潮の中、それでも栄一が決断するところ。
「必要なのは大量の良質の紙」と製紙会社を起こし、ようやく白い紙の生産に成功するも、大蔵省から「大蔵省の工場を立てるから社名を変えろ」「その土地をよこせ」「水を半分よこせ」など無理難題を突きつけられたりもします。その難題を、ただただ民間会社を発展させたいとの思いで、じっと耐えすべて受け入れたことも、記されています。
社会の制度や銀行、会社だけではなく、その活躍は幅広く、教育、社会福祉事業まで至ることもしっかりと修められています。また、当時アメリカとの関係がよくない方へ言っていた時も「人形を贈り合う交流」を提案 し、外交にも尽力したことがまとめられています。
「おわりに」では、本文には記されてない、でも栄一の人となりを語る時に外すことのできない「藍」のことと、明治の大実業家・岩崎弥太郎と「もうけは一族を繁栄させるもの」「会社はみんなのもの。みんなが幸せになる方へ」という意見の対立から大喧嘩したエピソードもしっかり紹介されています。でも、そのあとのページ「親族」のところで孫の渋沢敬三は岩崎弥太郎の孫と結婚したことが記されています。
巻末には「栄一をとりまく人びと」「幕末から活躍した人々」「親族」「ゆかりのある場所」「栄一をもっと知ろう」「年表」「記念館の案内」と余すところなく網羅されています。
解説も、それぞれで面白いです。
例えば、この箇所。
無邪気といふ言葉に就て考へて見ると、邪念のない率直な天真爛漫の性情である。痴呆とか愚鈍とかいふ意味とは全然趣意を異にして居るので、彼は痴呆だ愚鈍だと云われたら恥辱でもあらうが、無邪気だと呼ばれたとて其の中に誹謗の分子は更に含まれ居らぬ筈である。
『青淵百話』(渋沢栄一)
〈『渋沢栄一 人生を創る言葉50』〉
渋沢栄一さんの5代目子孫である渋澤健さんの『渋沢栄一 人生を創る言葉50』では、
⚫️無邪気さを表現できない会社に新しい価値創造はできない
(中略)
自分の「やりたいこと」「やれないこと」が行動指針にならず、「できること」「できないこと」の軸で事を判断する傾向が知らず知らずのうちに自分の習慣となっています。
(中略)
正しい答えを出すこと。正しくない答えを出さないこと。これを繰り返していくうちに、どんどん視野が狭まってしまいます。同時に固定概念の壁が立ちはだかっていきます。
無邪気に自分が「やりたいこと 」に忠実にならなければ、それは長続きしないか、自分のモノにならない時間の無駄になるでしょう。
(中略)
アップル創業者のスティーブ・ジョブズの名言である”Stay Hungry,Stay Foolish”とは、「阿保になれ」という意味ではありません。「無邪気のままで」という意味なのです。
『渋沢栄一 人生を創る言葉50』(渋澤 健・著/致知出版社)P106〜109
とスティーブ・ジョブズの言葉を例に説明されています。
〈『[現代語訳]ベスト・オブ・渋沢栄一(木村昌人・編/NHK出版)』〉
『[現代語訳]ベスト・オブ・渋沢栄一(木村昌人・編/NHK出版)』では、「渋沢栄一本人の言葉を、読みやすい現代語訳に」されていて、こう書かれていました。
無邪気という言葉は、よくない間違った考えを持たない素直で飾り気がない性格ということです。愚かとか鈍いとかとはまったく違う意味ですので、「あなたは無邪気だ」と言われても、それは悪い意味ではありません。
『[現代語訳]ベスト・オブ・渋沢栄一(木村昌人・編/NHK出版)』
〈『渋沢栄一「生き方」を磨く 自分の強み・経験・才能は、こう生かせ(竹内 均・編・解説/三笠書房)』〉
こちらは、「心の持ち方」「成長」「人間関係」などに大きく分けて、こういうとき どういう心持ちでいたらいいか。どんな行動を取ればいいかの指針が分かりやすく解説されていると思う。
〈人に好かれる資質を養う〉というところで、この文が紹介されています。
無邪気という言葉について考えてみると、邪念のない率直な天真爛漫な性情である。痴呆とか愚鈍とかいう意味とは全然違う。痴呆だ愚鈍だと言われたら恥辱だが、無邪気だと呼ばれても誹謗の要素は少しも含まれないはずである。
知恵の働き、学問の積み重ねが十分あって、それで天真爛漫の態度を維持し、知恵や学問を活用していくならば、その人格は実に立派なものである。知力や学問の力を悪用して有邪気に働かせるからこそ多くの弊害が起こるので、それと反対の態度で無邪気に活用させる人ならば、それこそ真に世の中の宝である。
知恵があり学問があればあるほど、いっそう無邪気であることを願うべきではないか。
『渋沢栄一「生き方」を磨く 自分の強み・経験・才能は、こう生かせ(竹内 均・編・解説/三笠書房)』
読みやすさは?
〈『渋沢栄一 人生を創る言葉50』〉
は、まず渋沢栄一の書いた文からさらに強調したいところを抜粋。その後、本文全体。そして次のページに渋澤健さんの解説、と整理されていて、読みやすい。
〈『[現代語訳]ベスト・オブ・渋沢栄一(木村昌人・編/NHK出版)』〉
現代語訳になっているので、理解しやすいのと読み進めやすい。
現代語の言葉の選び方、言い回しも理解しやすくまとめられている。
〈『渋沢栄一「生き方」を磨く 自分の強み・経験・才能は、こう生かせ(竹内 均・編・解説/三笠書房)』〉
「三笠書房」さんらしい編集で、目次を見て、「こういうときはどうしたらいい?」に答えてくれる。
渋沢栄一の年譜つき。