東京ディズニーリゾートの年パス、さらに世界各国のディズニーランドを巡るほどディズーニーが大好きな友人が薦めてくれた本。
最初は、ちょっと頭に入ってこないような、そんな難しさを感じたので、一旦、最後までじっくりではなくサラッと流し読みすることにしました。そうすると、読み進めるに連れ、ロバート・アイガーさんの人柄の深さにだんだんひき込まれ面白く感じると同時に、数々の買収劇に気が休まらないスリル満点の内容に、それから最初に戻り、じっくり頭に入るように読み直した本でした。
【ロバート・アイガーさんが手がけたこと】
アイガーさんがディズニーのCEOに就任してからの15年のあいだに、「トイストーリー」などで知られるピクサーや「アベンジャーズシリーズ」で知られるマーベル、「スター・ウォーズ」のルーカスフィルムの買収。ピクサーの買収に関しては当時気難しいと言われていたあのスティーブ・ジョブズもアイガーさんには気を許していたと言う。そして、アニメーション部門では『アナと雪の女王』をはじめヒット作が続く。上海ディズニーランドをオープン。実写では買収したマーベルの『アベンジャーズ』が大ヒット。タイム誌の2019年「ビジネスパーソン・オブ・ザ・イヤー」に選ばれた人。
こんなに大きなことを次々にやり抜いた人がロバート・アイガーさん。愛称はボブ。
【ロバート・アイガーさんってどんな人?】
訳者後書きより抜粋しますが、
アイガーさんは「理想の上司・理想の部下」のその理想のまんまだそう。
人柄は前向きで誠実。野心はあっても謙虚に辛抱強く目の前の仕事に力を注ぐことができる、と。
タイム誌はアイガーを評して「『あいつはいやなやつ』などという人が周りにひとりもいない、エンタメ界では稀有な存在」だと書いている。
いったい、そう言われるまでにアイガーさんはどんな親でどんな家庭でどんなふうに育っていったんだろう?ととても興味深いです。
そして、希望してディズニーに入社したわけではなく、ABCテレビの雑用係から始めて、たまたま!?ABCテレビがディズニーの傘下になったことでディズニーに入るという人生の流れになった人が行く末はCEOという。実際こんな人が世の中には存在するのね!
そういった方は「成功者になるためには?」と貪欲に思っていたかというとそうでもなかったそうで、
「成功者」のはっきりしたイメージはなかったし、金持ちや権力者がどんなものかを具体的に思い浮かべることはできなかったけれど、失望の中で生きたくはないと心に決めていた。どんな人生になるにしろ、不満を抱え込んだり充実感のない生き方を選ぶことはありえないと思っていた。
『ディズニーCEOが実践する10の法則』(ロバート・アイガー/著)早川書房
よく、「理想の姿を『イメージ』するといい」と言いますが、アイガーさんは意外にも、はっきりとしたイメージはなかったのですね。
たた、「失望」や「不満」といった重かったり暗い思いが湧いてくるときには、きっぱりと訣別した生き方を選んでいらしたのが伝わって来ます。
この本では【第一章】「下っ端時代」のところでアイガーさんの育った家庭についても触れられています。
【ロバート・アイガーさんの生い立ち】
アイガーさんは、長男。そして3つ下の妹さんがいらっしゃる。
私も妹も愛情に飢えたことはなかった。
『ディズニーCEOが実践する10の法則』(ロバート・アイガー/著)早川書房
お母さまは暖かく愛情深い人で、子供が小さいうちは専業主婦の家庭でした。
お父さまは、いつも弱者の味方をしている人ではあったのですが、気分の揺れを抑えることができず、余計なことを口にして問題を起こしたり、出世とも縁遠く、仕事を転々とするような人でした。アイガーさんは10歳か11歳の頃には、幼いながらも「なぜだろう」と不思議に思っていたと。そして、お母さまは家の修理はいつもアイガーさんに頼んでいたそう。アイガーさんは長男だったので、お父さまの不安定な気分の矛先が自分に向いても、それを受け止める責任を感じてたり、お父さまを気の毒に思っていた、と明かされています。躁鬱病を煩われていて、電気ショック療法などの治療も受けられていたそうです。そのために「自分が家族を支える柱にならないといけない」と感じていたそうです。
【ご両親については】
・少し大きくなると、父が自らに失望していることに気づきはじめた。父は満足な人生を送れず、人生に失敗したと思っていた。
・若い頃から自分について悩むことはあまりなかったが、父が幸せな人生を送れず、母もそれで結果的に苦しんだことは、私の心残りだ。
・父にはもっと自分に誇りを持ってほしかった。
『ディズニーCEOが実践する10の法則』(ロバート・アイガー/著)早川書房
と語られています。
【ディズニー元CEOの語る親孝行って?】
そして、アイガーさん、ディズニーのCEOに就任してからのことです。ニューヨークでお父さまを昼食に連れ出し、
そこで、私と父は精神の病について話し、父が人生をどう思っているかについて語り合うことができた。父と母が私たち兄妹のためにしてくれたことすべてに、両親が私たちに植え付けてくれた倫理観に、そして二人が注いでくれた愛情に、心から感謝していることを私は伝えた。二人は私たちに充分すぎるほどのことをしてくれたのだと父に話した。
そして、私が感謝の気持ちを伝えることで父の失望が少しでも和らぐことを願った。
私の成功を助けた脂質の多くは、父から受け継いだものだということを、父にわかってほしかった。父にそれが伝わったことを願っている。
『ディズニーCEOが実践する10の法則』(ロバート・アイガー/著)早川書房
人生において、『自己肯定感』が大切だということ、そしてそれは、幼少期の家庭環境や親子関係などが影響しているという説があるのですが、アイガーさんは、幼い頃、精神的な面ではけっして落ち着いてはいられない、やすらぎのある空間とは言えない環境であったにもかかわらず、そして、そのことが『父のせい』などと非難したり、恨んだりせず、励ましを送ろう(贈ろう)とされているところに胸を打たれた。
【スリルある内容】
ピクサー、マーベル、ルーカスフィルム、21世紀フォックスと次々に買収していくそのやり取りの緊張感が途切れない内容でもありました。以前、テレビでピクサーのジョン・ラセターさんの特集がありましたが、その時のこととその後のことも描かれていて、人生は一部分を切り取っただけではなく、流れていくものなんだなとしみじみ感じました。スティーブ・ジョブズとのやり取りや交流も綴られています。
【心に残った場面】
これまでの買収では、特にピクサーの買収では、ディズニーにとってこれが正しい道だという自分の直感を信じることができた。しかし、今回のツイッターの買収は逆だった。私の中の何かが、「違う」と言っていた。何年も前にトム・マーフィーが言ったことが、私の頭の中にこだました。「もし何かかが『違う』と思ったら、おそらくそれは君にとっては正しい道ではないんだよ」
『ディズニーCEOが実践する10の法則』(ロバート・アイガー/著)早川書房
「違和感」を感じても、流してしまうことがある。自分だけのことならともかく、人が関わってくると言い出しにくいこともあるのに、大きな組織の中で、トップとしてその違和感を元に決断をする、進めていたことを止める、辞める、と言った判断をすることができるその勇気、強さ。自分の「違和感」は大切にしようと思った。
人は時として大きな賭けをはなから諦めてしまうことがある。勝率を計算し、最初の一歩を踏み出す前に、うまくいきっこないと自分に言い聞かせるからだ。私が昔から直感的に感じてきたことであり、ルーンやマイケルのような人たちと働いた経験からも確信を強めたことは、到底できっこないと思えることが、意外に現実になるということだ。
『ディズニーCEOが実践する10の法則』(ロバート・アイガー/著)早川書房
「意外に現実になる」という確信が強まったのは、アイガーさんが一緒に働いたルーンさんやマイケルさんからの影響のお陰なんですね。よい影響を与えあえるということも仕事や人間関係の醍醐味だと思います。
また、
ロイを卑小に感じさせたり辱めを与えても、何も得るものはない。彼はただ誰かに敬意を払ってほしかっただけで、そうしてくれる人がこれまで周りにいなかったのだとわかった。
ほんの少し敬意を払うだけで信じられないくらいいいことが起きる。逆に敬意を払うだけで、信じられないようないいことが起きる。逆に敬意を欠くと大きな損をする。
「敬意を払う」という一見些細でつまらないことがどんなデータ分析にも負けず劣らず大切な決め手になった。敬意と共感を持って人に働きかけ、人を巻き込めば、不可能に思えることも現実になるのだ。
『ディズニーCEOが実践する10の法則』(ロバート・アイガー/著)早川書房
と、アイガーさんは「敬意を払う」ということも大切にされていることがわかりました。
稀に見る成功者と間違いなく言える人の、生い立ち、考え方、大切にしていること(心がけていること)を知ることができる一冊です。